四、桜ひろばのひみつ
 

    しばらくして、山本君が、いとこだという中学生を連れてやってきた。
 紗枝はじっと様子を伺った。
 あっという間に、今までにない空気に変わったと感じたのだ。
 目つきがきつい。というより落ち着かず、すさんでいる。
 寂しさのかたまりだ。
 まるで野良犬。
 ビッグTシャツに、だぼだぼズボンのすそをわざと踏みつけすりきれさせているいでたちは、ぐれてやるぞと周囲のものに訴えているファッションだ。
 はっきりいって、このひろばには、いてほしくない。
 紗枝はそう感じた。
 そういえば、春休みはとっくに終わっているし、土日でもない平日に、なんでいとこのうちにやって来ているのか、あやしい疑問がわいてきた。
「サッカーやろうぜ。」
 その中学生が、来るなりもってきた自分のサッカーボールを、ワンバウンドさせて、右手の平にのせた。
 オーケーのかわりに、みんなは西側に散らばった。
「なんで、それじゃあハーフコートだろ」
不満そうに、文句をつけてきた。
「お兄さん、あっち側はサッカーにはむかないんです」
 紗枝が、即答した。
「チビどもがいるからか?」
「そうじゃない理由があるんです」
「いいじゃん、せっかくこんだけ人数がいるなら、オールコートにしようぜ。おーい、チビあぶねえぞ。兄ちゃんたちが、サッカーやるんだから、そこどけよ」
 わがままな中学生だと、ここにいる全員が感じた。
 洋平が、ぼそっといった。
「あそこのポイント、今も危ないよね」
 この町の子どもなら、オールコートでサッカーは絶対にやらない。
 チビたちは出来るものならやってみなという態度で、桜ひろばの入り口付近にずらっとならんで、サポーターのふりをした。
 杉太たちは、口でいうより一度の体験と、その中学生が、危険ポイントでわかる体験をするように、ポジションをとってみた。
 紗枝は、人数が半端だからと、交代要員の振りをして、事の成り行きを見届けようと思った。
 センターから、杉太が西側に向かって攻め始めた。
 中学生は、運動不足でぼてぼての体にしては、がんばって走ってきて、自分でインターセプトし、ドリブルで東側まで独走した。
 小学生相手に、はずかしいくらいの張り切りようだ。
 しかし、ちょうど、左サイドからの絶好のシュートポイントに来た瞬間、足をすくわれて、身体が前方に放り投げられたみたいだ。
「てめえなにすんだ」
 と、さけんでみたが、その左サイドはもちろんのこと、半径三メートルの範囲には、だれもいない。
 わがまま男が一人でこけることを予測して、みな傍観者になっていた。 
 紗枝が、ほらねという顔で、
「こうなるんです。その場所でボールけったり走ったりすると、身体が投げられちゃうんです。だれがやっても」
 と、解説を加えた。
 チビのサポーターたちも、笑いをこらえてニヤニヤしているのだ。
「おまえら、なんなんだよ。オレをばかにしたな」
 山本君の、首の後ろのシャツをつかんで、みっともない八つ当たりをしている。
 山本君も、みんなに悪いと感じて、
「やっぱり、帰ろうよ、サブちゃん、ね」
 首をつかまれたまま、年上のわがまま兄ちゃんを説得していた。
 この空間に遊んでいると、心の中にそよ風が吹く。
 まるで、守り神がいつも守ってくれてるみたいなのだ。
 山本君のいとこは、通ってる中学で、暴力事件を起こして、三日間の停学処分を受けていたらしい。
 あの時、桜ひろばにいた誰もなぐらなかったのは、奇跡に近いと、後日、山本君が杉太にいっていたらしい。
 杉太は、遊ぶ約束をしたときから、そのいとこの事情を、山本君から相談されていた。
 杉太には、このひろばの不思議なパワーの存在がわかっていたので、簡単に、
「つれて来いよ。一緒に遊んでみればわかるよ」
 と、すすめたのだった。
みんなが山本君たちを見送っている間、紗枝は、ゆっくり歩いて、ポイントの場所を調べていた。
 洋平も、それに続いて地面の様子をしゃがんで見た。すると、はじにつないでいるアンが、
「キャンキャン」
 と、ほえたのだ。
「アン、うるさいぞ、なんだよ」
 洋平の声に、反論するようにもう一度、
「キャンキャン」 
 と、ほえた。
「洋平君、アンには何か感じることがあるんじゃない? ここにつれてきてみたら」
 紗枝の言葉に、洋平もそうかもしれないと思えた。
 アンのところへ、走っていった。
アンに引っ張られるようにして洋平がまたポイント付近に近づこうとしたとき、アンが足をふんばってそれ以上は動かなくなった地点があった。