桜ひろばのひみつ

一、のろわれた桜ひろば
「ねえ、聞いた聞いた?」
 杉太(さんた)があわてた様子で、六年三組の教室に駆けこんできた。
 サッカーボールに空気を入れるために職員室の後ろの出口を使ってる杉太は、先生たちのうわさ話を耳にしたのだ。
 読んでいた本をパタンと閉じて、紗枝(さえ)が聞きかえした。
「何を?」
「桜ひろばがなくなっちゃうってさ」
「いつ?」
「それは聞かなかったけど、大山ストアーがコンビニになるんで、駐車場にするって話らしい」
「絶対に、そうかんたんには、あそこを駐車場になんかできないわよ」
「何でそんなこといえるのさ。絶対なんて」
 杉太が、口をとがらせていると、前の方の座席から、洋平(ようへい)が、そのわけ知ってるぞ、という顔で近づいてきた。
「前にも、あそこに八百屋ができそうになったんだけど・・・・」
 洋平は、急に口に手を当てて、ふるえるようにしゃべるのをやめた。
「なんだよ、いいかけたら最後までいえよ。気持ち悪いだろ」
「だって、ぼく、またのろわれたくないもん」
「のろわれるだあ? なに非科学的なこといってんだよ」
「どうせ、ヒカガクテキですよ」
 洋平のリアクションに無関心のまま紗枝が、能面のような顔で 淡々と語った。
「八百屋のおじさんは、トラックを使って行商をしてたのよ。お客を増やす商売上手だったんですって、家の母さんもよく買いにいってたわ」
 方々の空き地を利用していたが、あそこのひろばで多くの客を得たのだ。それで、店を構えることを決めて、三日後、交通事故で亡くなった。
 そのまえは、不動産屋。
 まえのまえは、古くからのお菓子屋の四代目か五代目だった。
 皆、店を出す前に亡くなってる。
紗枝は淡々と語った。
「知らなかったなあ、だって、おれたちはいつもあそこで遊びまくってるし、ぜんぜん危険じゃないだろ? ときどきサッカーやるやつが、シュートポイントでこけるけどさ」
「そうよね、あの場所で殺されてるわけじゃないものね。ただ、あの桜ひろばにかかわった大人は、のろわれるってうわさはけっこう聞いたような気がするわ」
「紗枝ちゃん、よくそうやって平然と口に出せるよな。こわくないの?」
 洋平の感心したようなまなざしに、杉太も同感だった。
「のろわれるってことですませるから、解決しないと思わない? 
 紗枝の言葉に、二人はもっともなことと納得し、うなずくしかなかった。
 チャイムがなって、昼休みが終わった。
「あ、いっけねえ、掃除時間だぜ」
 杉太はずっと結びっぱなしの黄色いバンダナを、あわてて帽子のようにかぶり、職員室のとなりの会議室まで走った。
 廊下で、手ぬぐいを頭にかぶったお掃除スタイルの教頭先生に捕まった。
 説教されながら、ひたすらぺこぺこ頭を下げ、入り口から駆け込んだ。 

 遊ぶ子どもたちの歓声が、いつもこだましている桜ひろば。
 都心に近くて、遠巻きに、ビルに囲まれている町だ。
 桜ひろばの北側は土手は緩やかな傾斜だが、二階建ての屋根ほど高く、その上に私鉄の線路が走っている。
 南側から届く、住宅街の屋根を越えてくる太陽の日差しとあったかい風が、土手にたまって、冬でもかなりの暖かさであふれている。
 北風は、直接は遊んでいる子らには、当たらない。
 東側は工場の社宅で、桜とけやきのちょっとした森となっている。
 西側は、さくら商店街の端っこで、食料品中心の大山ストアー。 平井薬局。
 そのとなりは「コロッケ屋」と子どもたちには呼ばれているが、ちゃんとしたお肉屋さん「キッチン」。紗枝のうちでもある。
 井上洋品店と井上布団店は経営者が同じらしい。
 花屋。魚屋は洋平のうち。
 酒屋。
 とにかくこの町には、スーパーはいらないくらいだ。
 昔ながらのお店が、駅に向かって並んでいる。それをこの町の人は、みんなとても気に入っている。
 サッカーコートがすっぽりはいるくらいの桜ひろばは、代々、子どもの人気の場所となっている。
 その桜ひろばが、なくなってしまうかもという、うわさの事件が、過去数回、起きている。
 そのたびに、不幸な結末になることも多い。
 最近また、桜ひろばがなくなるうわさがささやかれている。
 大山ストアーのコンビ二化にあたり、地続きの駐車場に、ぴったりの土地というわけだ。
「コンビ二はできてもいいかもね」
 子どもたちはこの町にも、流行のコンビニができることは大いに賛成だった。
 しかし、その代わりに、あの桜ひろばがなくなるというのなら、
「やっぱり、コンビ二はいらない」
と声をそろえていえる。
 そこがあのひろばのすごさといえるかもしれない。
 それに、大山ストアーの誰かの命が危ないとすれば、何とか食い止めたいとも、思っている。